【OC号2021】【インタビュー】大学は「殻が破れる」場所 東北大学加齢研 所長 川島隆太教授
「脳トレ」の愛称で有名なゲームソフト「脳を鍛える大人のDSトレーニング」は、2005年に任天堂から発売されて以来、「脳トレブーム」を引き起こすほどの社会現象を巻き起こした。監修者の川島隆太教授は現在、本学加齢医学研究所の所長を務める。川島教授の人生や大学での学びの意味についてなど、幅広く話を聞いた。(聞き手は松本琉太)
―川島教授の高校時代はどのようなものだったか
高校時代はあまり勉強をせず、友達と遊んでばかりいた気がしますね。3年間をダラダラ過ごした結果浪人することになったのですが、中学の頃から脳と心に興味があり、医学部に進みたいという思いは強かったので、予備校で必死に勉強して翌年、東北大学医学部に入学しました。そういう意味で、非常に「メリハリ」がある学生時代でした。
―川島教授の研究生活は
僕の目標として「健康な人の脳の働きを知りたい」というものがありました。大学在学中、ポジトロンCTという技術で脳の働きを画像化できると知り、卒業後はマッピング(脳のどの部位にどういう働きがあるかを調べること)の研究を行ってきました。当時最先端の技術であったため日本に教えてくれる先生がおらず、スウェーデンの先生のもとに留学して学ばせてもらいました。
―「脳トレ」はどのようにして誕生したのか
研究を重ねていくうち、「成果を社会の役に立てたい」と思うようになりました。データを調べていくと、単純な行動ではあるものの、読み書きや計算をすることで大脳が働くということが分かってきました。精神的負荷はかかっていないのに、脳だけが働くという不思議な発見でした。
まずは認知症の高齢者を対象とした実験から始めました。「学習療法」と名付けたこの方法では、薬でも治せなかったアルツハイマーの患者も健康に戻るといった劇的な効果がみられました。これを踏まえて健康な大人を対象とした効果検証も行い、効果も認められるようになってきました。
そんな中、2004年のニンテンドーDSの発売日に、任天堂の岩田社長(当時)がわざわざ東北大学にいらして、このドリルの中身をDSのソフトにしないかという提案を持ちかけられたんです。岩田社長は東京工業大学の出身で理系ということもあり、話の波長が合い、「やりましょうやりましょう」という形で話が進みました。そこで作り上げたのが、任天堂の「脳トレ」でした。
―大学で学ぶということをどのように考えるか
これは論文に書かないと決めたデータなんですけど、大学の受験勉強をしっかりやった人、努力した人は、そうでない人に比べて脳の働きが全然違うんです。しっかり勉強することは、脳のバージョンアップに役立っていると、はっきり分かっています。なので、大学に入ろうとする努力自体は、確実にその人のためになります。
大学での学びは、高校までの受動的な学びとはガラッと変わります。やる気があればどこまででも勉強できるし、何もしないまま4年間を過ごすこともできます。そのような中で、自分を見失わずに自分を律する力が培われると思います。これは高校までの教育では絶対に身に付かない力で、皆さんにはそうした大学の魅力や怖さを、楽しんでもらいたいです。
―まさに今、受験勉強を頑張っている高校生にメッセージを
中学校、高校と比べて、大学はかなり自由です。僕の感覚ではありますが、中学校、高校というのはやっぱり少し閉塞感がありました。今も、高校という場所やコロナ禍という環境で、何となく何かに包まれているような感覚を覚える人はいるんじゃないかと思います。でも、確実にその先のステップに入ると、殻が破れてすごく自由になれます。これはとても素晴らしいことで、それを味わうためにも、ぜひ今努力をしてもらいたいですね。
かわしま・ りゅうた 1959年5月23日生まれ。千葉県出身。85年に本学医学部を卒業。01年に本学未来科学技術共同研究センターの教授となり、14年からは本学加齢医学研究所の所長を務める。05年に発売された、自身が監修を務めるゲームソフト「脳を鍛える大人のDSトレーニング」シリーズの売上本数は、全世界で3000万本を超えた。
(写真は撮影時のみマスクを外しています)
コメント
コメントを投稿